広島県と島根県を流れる一級河川、江の川が氾濫して14日で1カ月。中国地方最大の川は、堤防が必要な区間に対し、無堤防の区間が3割に上り、治水対策の強化を望む声が大きい。国と地方自治体などは堤防やダムだけに頼らず、流域全体で対策する「流域治水」の検討を始めた。地域で連携することで高まる豪雨リスクに備える。
堤防必要でも…未設置3割
江の川は、流域面積3900平方キロメートル、長さ194キロを誇る。国土交通省によると、堤防必要区間は154キロ。しかし2019年3月末現在、27%に当たる42キロで堤防がなく、豪雨による河川氾濫が頻発している。 流域で治水対策が弱い島根県美郷町港地区。農業を営む井上豊美さん(72)、三知子さん(71)夫妻は地区に住んで35年になるが、「川に隣接する田んぼの浸水は年中行事。漬からなかったのは4、5回しかない」(三知子さん)という。地区に堤防はなく、築100年の自宅も床上浸水を6回ほど経験した。 井上夫妻は、18年7月の西日本豪雨では自宅と出荷作業場が浸水。同年10月、300メートルほど離れた、かさ上げされた場所に自宅を移した。「浸水は慣れているが、この先また被災する可能性がある」(豊美さん)と考え、移転を決断した。 今年7月14日。江の川が再び氾濫し、濁流が押し寄せた。新しい自宅や畑は土地がかさ上げ済みで浸水は免れた。だが、移転前の自宅と作業場は高さ1・7メートルまで浸水。野菜の保冷庫や運搬車が被害を受けた。 江の川の全流域が被災した1972年ごろから、井上夫妻が所属する港自治会は、対策を行政に要望してきた。だが「住民が少なく費用対効果が見込めないから、対応が遅いのではないか」と、井上夫妻ら住民は半ば諦めている。
県域越えて協議会設立
美郷町によると、港地区は江の川本流と支流に挟まれ、堤防を建設しにくい地形だという。今回の氾濫では、同町の他、18年の西日本豪雨で被災した江津市桜江町、川本町なども住宅浸水や農地冠水の被害が出た。 度重なる被災に、行政も動きだした。水害の軽減へ、流域全体で対策する「流域治水」の検討が始まった。国土交通省と島根、広島の両県7市町が「江の川水系流域治水協議会」を5日に設立。今後、住民も協議に参加する。 堤防やダムだけでなく水田やため池を部分的に改修して雨水の貯水量を増やすなど、水田や山林の防災・減災機能を活用し、流域全体で排水・貯水機能を高める狙い。 「築堤には多大な費用や時間がかかる」(美郷町総務課)ため、協議会では多様な治水対策の早期実現を目指す。今年度中に計画を策定し、公表する予定だ。頻発する豪雨の対策に流域が一体となって本腰を入れる。(鈴木薫子)
日本農業新聞
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